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ゆのさんのボーイズ・ラブの館

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15-3激暑

オリジナルBL小説 GIFT~激暑・・・12・・ 連載約132話

      

  


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「1年の湯浅といいます」

日樹が少年の真向かいに腰を落ち着けると同時に
礼儀正しい挨拶が中央のテーブルを越えてきた
まだ初々しく少し大きめの制服が最小学年と一目でわかり
かつて自分が1年生だった頃、遥に連れられて
ここを訪れてきたことを思い起こす

今、目の前に居るのは
ほろ苦い珈琲よりも、甘い洋菓子の似合いそうな少年

少年は飾ることも無く、なんとも嬉しそうな表情で
時にはくっきりした瞳を更に大きく開き
主の不在を守る日樹へ息もつかずに話し続ける
どうやら今まで誰にも話せずに心に秘めていたことを一気に吐き出せたようで
とどまることを知らない

それはそうであろう・・・
その相談内容は流石の小梶にとっても難題の部類になる

だが肝心の小梶はまだ職員会議から戻らず
その間永遠と、日樹が下級生の相手をすることになってしまった

まるで駆け込み寺のような小梶のこのホームグラウンドを訪れる生徒の中には
思いがけない相談を持ち込む者もいるのだが、堂々と後押ししてやるわけにもいかない
慎重に取り計らってやらなければならないこともある

その相談というのは
どうやら先に行われた体育祭で活躍した高等部の生徒に、この少年は一目惚れしてしまったらしい

「先輩はどう思われますか?」
「・・・え?・・・」
「おかしいでしょうか?」
「う、ううん・・・」

うっかり口に含んだばかりの珈琲を噴き出してしまいそうになり
返事に間をあけてしまえば、少年の語尾が段々消え行くように、その表情も沈んでいく

「男の人を好きになるって、やっぱり変ですよね・・・」
「そ、そんなことはないんじゃないかな」

どうも歯切れが悪かった
何か自分の心に引っかかるものがあるようで、頭から否定ができないのだ
とはいえ、大切な友人であった遥との関係も友情以上のものではなく
恋愛とは少し違うような気がする

1クラス40名で1学年5クラス、それが中・高等部3学年ずつになれば
単純計算しても1200名、その生徒は全て男子なのだから
恋愛対象が同性になることもあり得なくない


「先輩はこんな気持ちになられたことがありますか?」
「僕が?」

自分へふられた質問だ
いい加減には答えたくなくて、しばらく沈黙を置く

義兄と鏡の関係を知りその後、義兄が実家を出てしまった時の嫉妬と喪失感こそが、
恋愛に近いものではないかとも思える

世間で異端と蔑視され認められなくても、現実に義兄は鏡と体の全てで愛し合っていた
当時は理解することも事実を受け入れることもできなかった自分だが
それから5年、学校で性に関する教育を受け、何もわからなかったあの頃とは違う

恋愛とは、穏やかにときめきを少しずつ育てながら
意識した時には心の奥深くまで独占されているもの
失った時に気づいた自分の感情は、少年のそれとは少し違うような気がする





日樹と湯浅クン




「よくわからないけど・・・憧れとか、その人を大切にしたいとか、
そういう気持ちはあってもおかしくないんじゃないかな」

真剣に相談を持ちかける下級生を傷つけない様に、
こちらとしても誠意をもった返答を試みる

「スポーツマンで逞しくて、チームのまとめ役的存在で・・・先輩もその勇姿をご覧になりましたか?」

日樹に否定をされなかったことで少年の顔が綻ぶ
この少年には世の中の何よりもキラキラを輝いて見える想い人
並べ上げたらキリがない美辞麗句は一時の熱病としても
今の彼にとっては一大事なのだ

とにかく、中・高等部合同の体育祭となれば大人数であり
そう言われてみれば、確かに際立っていた上級生がいたような記憶が片隅に残っている
少年の瞳には無論、その勇姿が一部始終焼き付けてあるのだろう
想い人の姿をこと細かに語る少年の黒髪がしなやかに揺れる

「校内で数度お見かけしたのですが・・・」
「その人とは話をしていないの?」
「挨拶程度しか・・・」

シュンと頷く
真っ直ぐで真っ白な気持ち
中等部の生徒が高等部の校舎をうろつくわけにも行かないのだから
校内で偶然の対面を期待するのは確率としてもかなり低い

「優しくされたら勘違いしてしまうことってありませんか?」
「・・・?」
「笑顔で声を掛けられたら、ボクのことを少しでも考えくれてるかもしれない・・・って」
「・・・あぁ・・・そういうことね」

一挙一動を意識しては、ほのかな想いに心揺れ動かし
正面からぶつかろうとしているこの小さな少年が健気でならない

「いきなり告白したら驚かれちゃうでしょうか」
「・・・それは僕にも・・・」

曖昧な返事ではあるが、
煽ったり引き止めたり、少年に影響を与えてしまう言葉はむやみに言うことはできない

「そうですよね・・・先輩はどなたかお付き合いされている方がいらっしゃいますか?」

真っ直ぐな分、遠慮ない物言い
矛先が自分に変わってしまった

「ううん・・・いないよ」

そう、自分を守るために封鎖してしまったもうひとつの分岐道
想いが深くなればなるほど傷も深くなるから
二度と経験したくないと自ら閉じ込めてしまった記憶と潜在意識
そして今・・・
新しく芽吹いた心にまだ気づいていない自分

遥、そしてこの少年との出逢いが、途切れた想い全てを連鎖させ、
自分が歩いて行こうと決めた道から、過去に封鎖した分岐へレールを切り替える






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